「やり方はわかってるのに、できない」という声
片づけの本を読んでも変わらなかったあなたへ
私はライフオーガナイザーとして14年間、片づけに悩む方のお宅に伺ってきました。
これまでたくさんの方とお会いしてきて、いちばん多く聞いてきた言葉があります。
「やり方はわかっているんです。でも、できないんです」
片づけの本を何冊も読んだ。テレビの特集も見た。SNSで収納術を保存した。どれも「なるほど」と思った。でも、自分の家で同じようにやろうとすると、なぜかできない。
あるいは、こういう方もいらっしゃいます。「始めるまではすごく大変だけど、始めたら意外とできるんです。でも次の日にはまた同じ状態に戻っていて」。やり方を知らないわけではない。一度はできた。なのに、続かない。
そしてその多くの方が、ご自身をこう責めています。
「やる気が足りないんだと思います」
「だらしない性格なんでしょうね」
「意志が弱いんです、私」
そういう言葉を聞くたびに、私は「違うんです」と思ってきました。それはあなたの性格の問題ではない、と。
私がこの14年間で確信していることがあります。
片づけられないのは、やる気の問題ではありません。
「やり方を知っている」と「実行できる」は別の力
「やり方を知っている」ことと、「それを実行できる」こと。この2つは、実はまったく別の力です。
たとえば、「毎朝ランニングすれば健康にいい」と知っていても、毎朝走れる人ばかりではありません。「早く寝たほうがいい」とわかっていても、つい夜更かししてしまう。「野菜を多めに」と知っていても、疲れた日はお惣菜になる。知識として知っていることと、それを行動に移せることのあいだには、大きな溝があります。
片づけも同じです。
「まず全部出して、分類して、しまう場所を決める」。手順はわかっている。でも、いざ目の前にモノの山があると、どこから手をつけていいかわからなくなる。始めたはいいけれど、途中で手が止まる。やっと片づけても、しばらくすると元に戻っている。
これは「やる気がない」のでも「だらしがない」のでもありません。「知っていることを行動に変換する力」そのものに、人それぞれの得意・不得意があるのです。
脳科学の分野では、こうした「わかっているのにできない」状態を説明する概念があります。心理学者のGeorge McCloskeyは、知識やスキルを持っているにもかかわらず、それを実際の行動として遂行することに困難がある状態を「遂行の困難(Producing Difficulty)」と呼んでいます。学ぶ力の問題ではなく、行動に移す力の問題。この視点は、片づけの悩みの本質をとてもよく表しています。
そして、その「行動に移す力」を担っている脳の仕組みを、「実行機能」と呼びます。
実行機能とは何か
脳の中の「司令塔」の働き
実行機能(Executive Functions)とは、自分の思考や感情、行動をコントロールするために脳が使う力の総称です。
もう少しわかりやすく言うと、脳の前頭前野という部分が担っている「司令塔」のような働きです。
私たちが何かをしようとするとき、脳の中では実にたくさんのことが同時に動いています。
- 「何を先にやるか」を判断する
- 目の前の誘惑をいったん脇に置く
- 作業の途中で、今どこまで進んだかを把握する
- 予定外のことが起きたとき、柔軟に対応する
- 感情が揺れても、作業を続ける
こうした一連の「脳のマネジメント」を行っているのが、実行機能です。
片づけという作業は、実はこの実行機能をフル稼働させる行為です。「どこから始めるか決める」「モノを見て判断する」「途中で脱線しない」「感情が動いても手を止めない」「終わりまで続ける」。どれも実行機能の出番です。
だから、片づけがうまくいかないとき、その原因は「やる気」よりも「実行機能の得意・不得意」にあることが多いのです。
Diamond(2013)の3つのコア機能で全体像をつかむ
実行機能の研究で世界的にもっとも引用されているのが、認知科学者のAdele Diamondが2013年に発表したモデルです。Diamondは、実行機能の土台となる3つのコア機能を示しました。
まずはこの3つで、実行機能の「大きな地図」をつかんでみましょう。
1. 抑制制御(Inhibitory Control)
衝動的な反応を抑えて、立ち止まって考える力です。自制心や、関係のない情報を無視する力もここに含まれます。
片づけの場面で言えば、「セールで安いからつい買ってしまう」をいったん止める力。あるいは、引き出しの中から出てきた懐かしい写真に見入ってしまうのを抑えて、作業に戻る力。「ちょっと待って」と自分にブレーキをかける、その力が抑制制御です。
2. ワーキングメモリ(Working Memory)
情報を頭の中に一時的に保持しながら操作する力です。
たとえば、引き出しの中を整理しているときに、「これはリビングに持っていこう、あれはキッチンへ、この書類は後でファイルに」と複数の行き先を頭の中に保持しながら作業を進める。その「脳の作業テーブル」の広さがワーキングメモリです。
この作業テーブルの広さは人によってかなり違います。テーブルが広い人は、同時にいくつもの情報を並べて処理できる。テーブルが狭めの人は、途中で「あれ、何をしようとしていたんだっけ」となりやすい。それはワーキングメモリの容量の個人差であって、注意力や真面目さの問題ではありません。
3. 認知的柔軟性(Cognitive Flexibility)
視点を切り替えて、変化に対応する力です。
「このモノはここに置くべき」と決めていたのに、生活が変わってその場所が合わなくなったとき、新しい配置に柔軟に切り替えられるかどうか。あるいは、「片づけはこう進めるべき」と思っていた手順がうまくいかなかったとき、別のやり方を試せるかどうか。
この認知的柔軟性は、抑制制御とワーキングメモリという2つのコア機能の上に成り立つ、とDiamondは説明しています。つまり、「衝動を抑える力」と「情報を保持する力」の両方が土台にあって、初めて「柔軟に切り替える力」が働くということです。
そしてこの3つのコア機能を基盤として、さらに上位の力、つまり計画を立てたり、問題を解決したり、推論したりする力が働いていきます。
Diamondのモデルは、実行機能の「骨格」を理解するのにとても役立ちます。ただ、片づけの具体的な困りごとと結びつけるには、もう少し細かい要素に分解したモデルのほうが使いやすい。そこで、次に紹介するのがDawson & Guareの12要素モデルです。
実行機能には12の要素がある(Dawson & Guareモデル)
実行機能をより実践的に、日常生活の場面と結びつけて整理したのが、心理学者のPeg DawsonとRichard Guareによる12要素モデルです。
DawsonとGuareは、「実行機能とは具体的にどんな力の集まりなのか」を12の要素に分解しました。この分類は教育や家庭での実践に広く使われており、日本でも実行機能コーチングの分野で定訳が定着しています。
12の要素をひとつずつ見ていきましょう。それぞれ、片づけの場面でどう関わるかも添えて紹介します。
1. 反応の抑制(Response Inhibition)
行動する前に、いったん立ち止まって考える力です。状況を判断してから動くか、衝動のまま動いてしまうか。片づけの場面では、「安いから」「限定だから」とモノを増やしてしまう衝動を一拍おいて見直す力にあたります。「本当に今の暮らしに必要かな?」と自分に問いかけるための、一瞬の「間」を作る力です。
2. ワーキングメモリ(Working Memory)
複雑なタスクをこなしながら、必要な情報を頭の中に保持する力です。先ほどDiamondのモデルでも登場しました。片づけ中に「これはあそこに、あれはここに」と複数の行き先を覚えながら動く。その力です。過去の経験から学んだことを目の前の状況に適用する力も含まれます。「前にこの収納でうまくいったから、今回も同じやり方でいけそう」と判断するのもワーキングメモリの仕事です。
3. 感情のコントロール(Emotional Control)
目標やタスクに向かうために、自分の感情を管理する力です。思い出のモノを手に取って気持ちが揺れたとき、その感情に飲まれず作業を続けられるかどうか。亡くなった家族の持ちものを前にして、悲しみがあふれてきたとき。子どもが小さかった頃のおもちゃを見つけて、切なくなったとき。感情を「消す」のではなく「扱う」力、それが感情のコントロールです。
4. 課題の開始(Task Initiation)
先延ばしにせず、やるべきことに取りかかる力です。「片づけなきゃ」と思いながらソファから立ち上がれない。あの感覚は、課題の開始という実行機能が関わっています。やる気はあるのです。でも、エンジンがかかるまでに必要な条件が、人によって違う。「始められない」のは怠けではなく、エンジンの始動の仕方が人それぞれだということです。
5. 注意の維持(Sustained Attention)
気が散ったり、退屈になったりしても、注意を持続させる力です。片づけの途中で気づいたらスマホを見ていた。引き出しの中から出てきた手紙を読み始めてしまった。別の部屋のことが気になって、いつのまにか移動していた。「集中力がない」と片づけられがちですが、これは注意を維持する力の個人差であって、真剣さの問題ではありません。
6. 計画と優先順位づけ(Planning/Prioritization)
目標にたどりつくための段取りを考え、「何を先にやるべきか」を判断する力です。散らかった部屋全体を見て、「どこから手をつけたらいいかわからない」とフリーズしてしまう。それは、この力が情報量に圧倒されている状態です。目の前にやるべきことが多すぎると、脳は「全部やらなきゃ」と感じて身動きが取れなくなります。
7. 整理・体系化(Organization)
情報やモノを管理するための仕組みを作り、それを維持する力です。「モノの住所を決める」こと自体が、この実行機能の働きです。ただ、仕組みを作るだけでなく、それを使い続けることも含まれます。せっかく作った収納の仕組みが複雑すぎると、脳が「面倒だ」と感じて元の場所に戻さなくなる。仕組みの作り方と維持のしやすさ、その両方にこの力が関わっています。
8. 時間管理(Time Management)
自分がどれくらいの時間を使えるか見積もり、配分する力です。「ちょっとだけ」と思って始めた片づけが気づけば3時間経っていた。あるいは逆に、「30分じゃ足りないから今日はやめよう」と先送りする。「ここの引き出しなら15分でできるだろう」と思ったのに実際は1時間かかった。時間の感覚が現実とずれてしまうのは、時間管理の実行機能が関わっています。
9. 柔軟性(Flexibility)
予定外のことが起きたとき、計画を修正できる力です。「この収納ケースに入れるつもりだったのにサイズが合わない」というとき、すぐ別の方法を考えられるか。あるいは、「前はこのやり方でうまくいったのに」という過去の成功体験にとらわれず、今の暮らしに合った方法に切り替えられるか。「こうあるべき」から柔軟に離れる力です。
10. メタ認知(Metacognition)
自分自身を俯瞰して観察する力です。「自分は片づけのどこで引っかかりやすいか」「今日は疲れているから大きな判断は避けよう」と、自分の状態やパターンを客観的に把握する力です。いわば「自分の脳のクセを知る力」。片づけの問題解決において、この力は最終的にすべてを束ねる存在になります。
11. 目標への持続性(Goal-Directed Persistence)
目標を見失わずに、完了まで粘り強く取り組む力です。片づけのプロジェクトは、一日では終わらないことがほとんどです。途中で別の用事が入ったり、モチベーションが下がったり、他の興味に引きずられたりしても、「あの部屋をこうしたい」というゴールを持ち続けて少しずつ進める。その力が、目標への持続性です。
12. ストレス耐性(Stress Tolerance)
プレッシャーや不確実な状況のなかで力を発揮する力です。「来客までに片づけなきゃ」という時間的な焦り。「これを手放して後悔しないだろうか」という不安。「家族が協力してくれない」という苛立ち。そうしたストレスのなかでも判断し、手を動かし続ける力がストレス耐性です。
こうして並べてみると、片づけという行為がいかに多くの実行機能を同時に使っているか、見えてくるのではないでしょうか。
片づけは、単に「モノをしまう」作業ではありません。判断し、計画し、感情を扱い、注意を維持し、時間を見積もり、柔軟に対応する。脳のさまざまな力を総動員する、とても高度な作業です。
だから、「片づけられない」と感じるとき、それはあなたの怠けではなく、これらの実行機能のどこかに「自分にとっての引っかかりポイント」があるだけなのかもしれません。
分類には諸説あること、このシリーズの立ち位置
ここで正直にお伝えしておきたいことがあります。
実行機能の分類は、研究者によって異なります。先ほど紹介したDiamondの「3つのコア機能」。Dawson & Guareの「12要素」。Russell Barkleyによる「7つの要素」。あるいは、George McCloskeyのモデルでは実行機能の下位要素を31にまで分解しています。
どれが正解でどれが間違い、ということではありません。それぞれの分類には、それぞれの目的と視点があります。大きく捉えたいのか、細かく見たいのか。研究に使いたいのか、日々の暮らしに活かしたいのか。
このシリーズでは、Dawson & Guareの12要素モデルを基本的な枠組みとして使います。理由は、日常の暮らしの場面と結びつけやすく、「自分のどこに引っかかりがあるか」を具体的に見つけるのに向いているからです。
また、一部の回では、McCloskeyのモデルから概念を借りて補足します。たとえば、先ほど紹介した「遂行の困難」や、「仕事ではできるのに家ではできない」という場面による違いを説明する「領域と場面のマトリクス」、そして片づけの維持・習慣化に関わる「ルーティンを使う力(Use Routines)」などです。
私は研究者ではなく、ライフオーガナイザーです。ひとつのモデルを「唯一の正解」として押し付けるつもりはありません。このシリーズが目指しているのは、実行機能という考え方を通じて、「なぜ自分は片づけのここで引っかかるのか」を理解するための手がかりを提供することです。
なぜ実行機能に得意・不得意が生まれるのか
実行機能は、すべての人に備わっている脳の力です。しかし、その力の出方には個人差があります。「計画を立てるのは得意だけれど、始めるのが苦手」「柔軟に対応するのは得意だけれど、注意を持続するのが難しい」。人によって、得意なところと引っかかりやすいところが違います。
では、なぜそうした得意・不得意が生まれるのでしょうか。大きく3つの背景があります。
もともとの脳の特性として(発達特性・個人差)
実行機能の得意・不得意は、生まれながらの脳の特性として存在することがあります。
たとえば、ADHDの傾向がある方の場合、課題の開始、注意の維持、反応の抑制などに困難を感じやすいことが知られています。「やろうと思っているのに体が動かない」「始めたのに途中で別のことに意識が飛んでしまう」「目に入ったものにすぐ反応してしまう」。こうした傾向は、脳の実行機能の特性から来ています。
ただし、ADHDのある方すべてが同じ実行機能に引っかかるわけではありません。課題の開始は苦手でも、始まってしまえば過集中できる方もいます。計画を立てるのは得意でも、時間の見積もりがいつもずれてしまう方もいます。その組み合わせは、本当に人それぞれです。
そして大事なことですが、こうした実行機能の個人差は、ADHDのある方に限った話ではありません。いわゆる発達特性の枠に当てはまらない方でも、「自分は計画を立てるのが本当に苦手」「感情に引きずられやすい」「ひとつのやり方に固執しやすい」という方はたくさんいます。
実行機能の得意・不得意は、連続的なグラデーションです。「ある/ない」の二択ではなく、誰にでも強い部分と弱い部分があります。
脳の損傷による変化として(高次脳機能障害)
脳卒中や交通事故、脳腫瘍の手術後など、脳に損傷を受けたことで実行機能に変化が生じることがあります。これは「高次脳機能障害」と呼ばれる状態に含まれます。
私はライフオーガナイザーとして、高次脳機能障害のある方の暮らしのサポートにも関わってきました。
たとえば、以前はてきぱきと家事をこなしていた方が、脳卒中の後に「やろうと思っても手順がわからなくなった」「途中で何をしていたか見失ってしまう」「どこに何をしまったか、自分で決めたはずなのに思い出せない」という状態になることがあります。
ご本人もご家族も、「以前はできていたのに」という戸惑いを抱えていらっしゃいます。その戸惑いは、とても自然なことです。
これはまさに、実行機能の変化による影響です。計画を立てる力、手順を記憶しながら進める力、注意を維持する力。それまで無意識にできていたことが、脳の損傷によって意識的な努力を必要とするようになります。「できなくなった」のではなく、「やり方を変える必要がある」ということです。
高次脳機能障害のある方の暮らしづくりについては、このシリーズの各回でも触れていきます。
一時的な状態として(疲労・ストレス・加齢・産後など)
実行機能は、固定されたものではありません。体調や環境によって、一時的に力が落ちることがあります。
仕事が忙しくて疲れ切っている時期。強いストレスを抱えている時期。睡眠不足が続いているとき。こうした状態では、普段はできている片づけが急にできなくなることがあります。判断力が鈍って「これどうしよう」が増える。始める気力がわかない。途中で投げ出してしまう。それは脳の実行機能が、疲労やストレスによって一時的に消耗している状態です。
産後の時期もそうです。ホルモンバランスの変化、慢性的な睡眠不足、生活リズムの激変。「前は普通にできていた家事が、なぜかできなくなった」と感じるお母さんは少なくありません。赤ちゃんのお世話で常に注意を向け続けている脳は、それだけで実行機能をフル稼働させています。そのうえ片づけにまで脳のリソースを回す余裕がなくなるのは、ある意味で自然なことです。「自分がダメになった」のではなく、脳が今いちばん大事なこと、つまり目の前の赤ちゃんのケアに力を集中させているのです。
加齢も実行機能に影響します。年齢を重ねるにつれて、ワーキングメモリの容量が少しずつ変化したり、新しいやり方への切り替えに時間がかかるようになったりすることは、自然な変化です。実家の片づけで、親御さんが「前はできていたのに」と戸惑っている姿を見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。それも、実行機能の加齢による変化として理解できます。
誰にでもある「脳のクセ」という視点
ここまで3つの背景をお話ししましたが、いちばん伝えたいのは、こういうことです。
実行機能の得意・不得意は、誰にでもあります。
「脳のクセ」という言い方をしてもいいかもしれません。右利き・左利きのように、脳にも得意な動き方とそうでない動き方があります。それは良い悪いの問題ではなく、ただの個人差です。
発達特性があろうとなかろうと、高次脳機能障害の経験があろうとなかろうと、今のあなたの脳には、得意なことと、ちょっと引っかかりやすいことがあります。
大切なのは、自分の脳のクセを知ること。そして、引っかかりやすいところには、自分に合った工夫や仕組みを用意すること。
「片づけられない自分はダメだ」と責めるのではなく、「自分の脳は片づけのこの部分で引っかかりやすいんだな」と理解する。その視点の転換が、このシリーズの出発点です。
このシリーズで扱う8つのテーマ
全8回のガイドマップ
このシリーズ「『片づけられない』は脳のクセだった」では、実行機能と片づけの関係を全8回にわたって掘り下げていきます。今回の導入(第0回)を含めて、全体の構成はこのようになっています。
- 第0回(今回): 片づけられないのは「やる気」の問題じゃなかった。脳の実行機能という話
- 第1回: 片づけを「始められない」のは、脳のエンジンのかかり方が違うから(課題の開始)
- 第2回: 片づけの途中で止まる。迷子になる。それは「注意」と「記憶」の交差点で起きている(注意の維持 + ワーキングメモリ)
- 第3回: 「どこから手をつければ…」が止まらないとき、脳の中で何が起きているか(計画と優先順位づけ)
- 第4回: モノに気持ちが絡まって手が止まる。感情のコントロールと片づけの深い関係(感情のコントロール)
- 第5回: 「つい買ってしまう」「こだわりが手放せない」の裏にある2つの脳の仕組み(反応の抑制 + 柔軟性)
- 第6回: せっかく片づけたのに元に戻る。「維持できない」を脳の仕組みから考える(整理・体系化 + 時間管理)
- 第7回: 自分の脳の「取扱説明書」を作ろう。片づけとメタ認知の話(メタ認知 + 全体の振り返り)
各回では、それぞれの実行機能がどんな力なのかを丁寧に説明し、片づけの場面で具体的に何が起きるのかを紐解き、暮らしの中でできる工夫を紹介します。また、毎回「3つの背景」(もともとの脳の特性、高次脳機能障害、一時的な状態)にも触れていきます。
このシリーズの読み方と約束ごと
最後に、このシリーズをお読みいただくにあたって、いくつかお伝えしておきたいことがあります。
このシリーズは、医療的なアドバイスではありません。
私はライフオーガナイザーであり、医療の専門家ではありません。ここで紹介するのは、脳の仕組みを手がかりにした、暮らしの中でできる工夫や、自分を理解するための視点です。もし日常生活に大きな支障を感じている場合は、専門家への相談も大切な選択肢のひとつです。
ADHDの方だけに向けた記事ではありません。
実行機能の得意・不得意は、すべての人にあります。特定の条件に当てはまる方だけでなく、「なんとなく片づけが苦手」「昔はできていたのに最近できなくなった」と感じているすべての方に読んでいただける内容を目指しています。
「脳のクセを知る」がゴールではありません。
脳の仕組みを知ることは、手段です。ゴールは、「自分に合ったやり方を見つけること」。このシリーズを通じて、「自分にはこういう傾向があるから、こういう工夫が合いそうだ」という、自分だけの答えに近づいていただけたらと思っています。100人いたら100通りの片づけがある。その信念は、このシリーズでも変わりません。
順番通りに読まなくて大丈夫です。
気になるテーマの回から読んでいただいてかまいません。「始められない」が悩みなら第1回へ。「途中で止まる」が気になるなら第2回へ。ただ、この第0回は、すべての回の土台となる考え方を扱っているので、どこかのタイミングでお読みいただくのがおすすめです。
「やり方はわかっているのに、できない」。
その言葉の裏側にあるものの正体が、少しだけ見えてきたでしょうか。
次回からは、片づけの現場で実行機能がどんなふうに顔を出すのか、一つひとつの要素に光を当てていきます。第1回のテーマは、「始められない」。
「片づけなきゃ」と思いながら、なぜか体が動かない。あの感覚には、ちゃんと理由があります。
出典・参考文献
- Diamond, A. (2013). Executive Functions. Annual Review of Psychology, 64, 135-168.
- Dawson, P. & Guare, R. (2018). Executive Skills in Children and Adolescents (3rd ed.). Guilford Press.
- Dawson, P. & Guare, R. (2009). Smart but Scattered. Guilford Press.
- McCloskey, G., Perkins, L. A., & Van Divner, B. (2009). Assessment and Intervention for Executive Function Difficulties. Routledge.
- Barkley, R. A. (2012). Executive Functions: What They Are, How They Work, and Why They Evolved. Guilford Press.
- 森口佑介 (2019).『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』講談社現代新書.

ライフオーガナイザー®として、特にADHD傾向のある方や片づけが苦手な方をサポート。完璧主義や罪悪感、思い込みなど、片づけの障害となる心理的要因に寄り添い、無理なく続けられる仕組みづくりを提案しています。
2012年からこの分野を学び、2023年にアメリカの専門団体「Institute for Challenging Disorganization®」にて日本人初のCPO-CDを取得。
「片づけの負担を減らし、自分らしい人生を楽しめる人を増やしたい」との思いで活動中。




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