「もったいなくて、捨てられない」。
そう思って、手が止まった経験はありませんか。まだ十分に使える。買ったときは高かった。いつか使うかもしれない。頭では「もう手放してもいいかな」と思っているのに、いざとなると手が動かない。そして気づけば、同じ物を何年も、しまったままにしている。
この記事は、「捨てる勇気を持ちましょう」という記事ではありません。
「もったいない」という気持ちを、なくしましょうとも、克服しましょうとも言いません。私は片づけのプロとして14年、たくさんのお宅にうかがってきましたが、「もったいない」と感じること自体は、悪いことでも、弱いことでもないと思っています。
「もったいなくて手放せない」のは、あなたが物に執着しているからではなくて、出口が少ないからかもしれない。とくに、捨てるという一つの出口しか見えていないと、捨てるのが惜しい物の前で、人は必ず止まります。これは、性格でも、意志の弱さでもありません。
「もったいない」は、捨てるしかないと思っているときに出てくる
まず、「もったいない」という言葉が、どんなときに出てくるかを考えてみたいんです。
物を前にして「もったいない」とつぶやくとき。多くの場合、頭の中ではこんなことが起きています。「この物を手元から出す=捨てる」。手放すことと、捨てることが、ぴったりくっついている。
だから、まだきれいな物、まだ使える物、思い出のある物を前にすると、「これを捨てるのは、もったいない」となって、手が止まる。
あなたが惜しいのは、本当に「物そのもの」でしょうか。
それとも、「まだ使えるのに、ゴミにしてしまうこと」が惜しいんでしょうか。
たぶん、後者ですよね。物そのものより、「ちゃんと使えるものを、無駄にしてしまう」ことのほうが、つらい。だとしたら、「もったいない」は、物への執着というより、「捨てる以外の道が見えていない」というサインなんです。
「もったいない」を否定しなくていい
よくある片づけのアドバイスでは、「もったいないという気持ちを手放しましょう」と言われたりします。でも私は、それは順番が逆だと思っています。
「もったいない」は、物を大切にする気持ちから出てくるものです。その気持ちごと否定されたら、片づけはもっとつらくなる。
なくすべきは「もったいない」という気持ちではなくて、「捨てるしかない」という思い込みのほうなんです。
私が現場で、いちばん多く聞く言葉
14年、片づけの現場に立ってきて、いちばん多く聞いた言葉が「もったいなくて」かもしれません。
クローゼットの前で、押し入れの奥で、たくさんの方が「これ、もったいなくて」と手を止めます。
そういうとき、私は「捨てましょう」とは、まず言いません。
代わりに、こう聞くことが多いんです。「これ、寄付できそうじゃないですか?」「欲しがってる人、いませんか?」
すると、ぱっと表情が変わる方が、けっこういらっしゃるんです。
「あ、そういえば」「それなら、いいかも」。
さっきまで「もったいなくて手放せない」と言っていた物が、すっと動きはじめる。
そこで分かるんです。この方は、物に執着していたわけじゃなかった。手放すのが惜しかったんじゃなくて、ふさわしい行き先が、思いつかなかっただけなんだ、と。
物が惜しかったのではなくて、行き先がなかっただけ。これが、現場で本当によく見る、止まり方なんです。
出口が少ないと、人は迷う
片づけが進まない理由を、私はよく「視点が少ないから」と説明します。
たとえば「いる/いらない」の二択しか持っていないと、迷う物の前で必ず止まる。決められないのは、能力の問題ではなくて、視点の数の問題なんです。
「もったいない」も、これとまったく同じ構造です。
手放すときの出口を「捨てる」一つしか持っていないと、捨てるのが惜しい物の前で、必ず止まる。「いる/いらない」で止まるのと、「捨てる/捨てない」で止まるのは、根っこが同じ。出口が少ない、というだけのことなんです。
だとしたら、やることは一つです。出口を増やす。
出口を増やすというのは、視点を増やすのと同じこと。新しい出口が一つ見えるだけで、今まで止まっていた物が、動きはじめます。
捨てる以外の出口は、こんなにある
では、捨てる以外に、どんな出口があるのか。
私は、出口をざっくり5つに分けて考えています。
- 寄付する — まだ使えて、誰かの役に立つ物
- 売る — 価値があって、手間をかけてでも次に渡したい物
- 譲る — 顔の見える誰かに、直接渡したい物
- リサイクル・回収に出す — 役目は終えたけれど、資源としてもう一度活かせる物
- どうしても、というときの処分 — どの出口にも乗らない物
ここで大事なのは、「捨てる(処分)」も、ちゃんと出口の一つとして残っている、ということです。
私は「捨てるのをやめましょう」と言いたいわけではありません。寄付も売るも譲るも合わない物は、たしかにあります。そういう物は、処分してかまわない。
問題だったのは、「捨てる」そのものではなくて、「捨てる」しか道がない、と思い込んでいたことのほうなんです。
出口が5つあると分かると、「捨てる」は、5つのうちの一つになります。
一択だったものが、五択になる。物自体は、何も変わっていません。変わったのは、その物に見えている出口の数だけ。それだけで、「もったいない」は、ずいぶん軽くなるんです。
それぞれの出口に、向いている物・向いていない物があります。「結局、どの出口を選べばいいの?」という話は、次の記事でくわしく整理しますね。ここでは、「出口は一つじゃない」とだけ、持って帰っていただければ十分です。
出口を増やしても、手放せない物はある
ここまで「出口を増やそう」という話をしてきましたが、正直なことを言わせてください。
出口をいくつ増やしても、それでも手放せない物は、あります。
寄付できると分かっても、売れると分かっても、譲り先を考えても、それでもなお、「やっぱり、今はまだ手元に置いておきたい」と思う物。14年たくさんのお宅を見てきて、出口を増やせば全部の物が手放せるかというと、そんなことは、まったくありません。最後まで手元に残る物は、誰にでもあります。
そして、それで、いいんです。
出口を増やすのは、「手放したいのに、道がなくて困っている」人のためのものです。手放したくないなら、手放さなくていい。
「今は、出さない」も、ちゃんとした答え
物を前にして、出口を全部見たうえで、「今は、出さない」と決める。これは、ただの先送りとは違います。
「あとで考える」は、何も決めずに、山の上に物を置いたままの状態。でも「今は、出さない」は、出口を全部見たうえで、「それでも残す」と自分で決めた状態です。先送りではなくて、選んだんです。
だから、「今は、出さない」と言えたなら、それはもう、片づけが一歩進んでいます。
手放す数を、誰かと競う必要はありません。「今は残す」と決めたなら、それが、あなたにとっての正解です。
「もったいない」を、出口で分けてみる3ステップ
最後に、今日から試せる手順を置いておきます。難しいことはありません。
ステップ1:「もったいない」と感じた物を、手元に集める
家の中を見回して、「これ、もったいなくて手放せないな」と感じる物を、いくつか手元に集めてみてください。クローゼットの服でも、本でも、子どもが使っていた物でも、なんでもかまいません。
ステップ2:その物に、捨てる以外の出口を当ててみる
集めた物を一つずつ手に取って、「この物に、捨てる以外の出口はあるかな?」と問いかけてみます。寄付できそう? 売れそう? あの人に譲れそう? それとも、今は決めずに保留しておく? 5つの出口を、順番に当ててみるイメージです。
ステップ3:一つでも当てはまったら、その出口に乗せてみる
「これ、寄付できそう」と思えたら、その物は寄付の山へ。「あの人にあげよう」と思えたら、譲るほうへ。一つでも当てはまる出口が見つかったら、それでもう、その物は動きはじめています。何も当てはまらなければ、「今は、出さない」でかまいません。
これだけです。判断する物を、一度に全部やろうとしないでくださいね。気になる物、数個から始めるくらいが、ちょうどいいです。
頭で分かっても、目の前の一つで手が止まる。それがふつうです。
そんなときは、AIと一緒に「この物との関係」を言葉にしてみる無料の場(claice)があります。残す・手放す・保留・別の場所へ、出口を一緒に探せます。
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この考え方を、もっと知りたい方へ
「捨てる」を起点にしない片づけの考え方は、前作にあたる本にくわしく書いています。
『捨てるからはじめない 片づけのプロは何を「捨てた」のか』(既刊・Kindle)
そして、この「出口で分ける」という考え方を、もっと具体的な分け方として一冊にまとめたのが、次の本です。
『分類の軸辞典 ──片づけを制するものは、分けるを制す』(近日発売予定)
物を分ける「軸」を、辞典のように引ける形にまとめました。今回お話しした「出口で分ける軸」も扱っています。発売前のお知らせや、片づけのヒントは、メールレターでもお届けしています。

ライフオーガナイザー®として、特にADHD傾向のある方や片づけが苦手な方をサポート。完璧主義や罪悪感、思い込みなど、片づけの障害となる心理的要因に寄り添い、無理なく続けられる仕組みづくりを提案しています。
2012年からこの分野を学び、2023年にアメリカの専門団体「Institute for Challenging Disorganization®」にて日本人初のCPO-CDを取得。
「片づけの負担を減らし、自分らしい人生を楽しめる人を増やしたい」との思いで活動中。




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