「服は小さいんですけど、これを手放したら、あのころがなくなる気がして」
オーガナイズサポートで伺ったお宅で、衣装ケースの前に座ったままそうおっしゃった方がいました。中に入っていたのは、お子さんが赤ちゃんのころから小学校に上がるまでに着ていた服です。ケースは3つあって、どれも上まで詰まっていました。その日は1枚も減らないまま終わりました。
自分の子どもの服が手放せないという相談は、現場でいちばんよく聞くものの一つです。数が多いからしんどいのではなくて、1枚ごとに手が止まるからしんどい。しかも止まる理由が自分でも分からないので、気づけば「私は決められない人間だ」という話にすり替わっていきます。
手放しにくいのは、服よりもその時期のほう
服そのものは布です。それでも手に取ると、着せていたころの手ざわりやその服で出かけた日のことまで一緒に戻ってきます。1枚を残すか手放すかを決めているつもりで、実際にはその時期を残すか手放すかを決めている感覚になるので、判断が重くなって当たり前です。
さきほどのお宅では、80サイズの上着を持ったまま「これを着せて、はじめて公園に行ったんです」とおっしゃっていました。服の話をしていたはずが、いつのまにか公園の話になっている。この切り替わりが起きているあいだは、どれだけ手順を説明しても手は動きません。
手が止まるのを「捨てられない性格」と呼んでしまう方が多いんですが、止まっているのは性格のせいではなく、決めている中身が服ではないからです。「捨てられない」という一言にどれだけ違う事情が混ざっているかは物が捨てられない原因は性格じゃないという話に書いたので、自分を責める声のほうが先に来ている人はそちらを先に読んでください。物に気持ちが結びつく仕組みそのものを知りたい方には、物への愛着がどう働くかも置いておきます。
全部残すか全部手放すか、の二択から降りる
手が止まっているとき、頭の中はたいてい二択になっています。全部とっておくか、思い切って全部手放すか。
全部とっておくほうを選ぶと、ケースは増え続けます。押し入れの下段が埋まったら上段、その次はクローゼットの奥という順で家の中の使える場所が減っていきます。逆に、勢いで全部手放した方から「あの1枚だけは残せばよかった」と後で聞くこともあります。
あるお宅で、衣装ケース4つを1日で全部見ると決めて始めたことがあります。2時間かけて、減ったのは0枚でした。最初の1枚で手が止まって、そこから先に進めなくなったからです。量の目標を決めずに全部を見ようとすると、1枚目が全体の重さを背負ってしまいます。
二択のどちらを選んでも、決めた本人が後で苦しくなります。全部でも0でもない量を自分で決めれば、それが答えになります。
残す数を先に決める
箱一つ、棚1段という決め方
数といっても「20枚まで」のように枚数で決める必要はありません。入れ物で決めるほうがずっと簡単です。家にある空き箱一つ、押し入れの棚1段、衣装ケース一つ。その中に入るぶんだけ残す、と先に決めます。
このとき新しい収納用品は買わないでください。買ってしまうと入れ物の大きさを服の量に合わせて決めることになって、結局いくらでも増やせます。いま家にあって、中身を出せるものを使ってください。
今日できるのは、箱を一つ選んで空にして床に置くところまでです。中身を入れるのは別の日でかまいません。
数が決まると選べる理由
残す数を決めないまま1枚ずつ見ていくと、判断は「これは捨てるか、残すか」になります。1枚ごとに○か×かを決める作業で、しかも何枚目で終わるのかが見えません。
箱一つと決めたあとは、同じ作業が「この中に入れるのはどれか」に変わります。服どうしを比べて順番をつけるだけなので、○×を無限に続けるより人はずっと決めやすくなります。実際、数を決めてから始めたお宅では手が止まっていたケース4つが1時間半で終わりました。
いま着ているサイズの服をどこに置くかは、残す数の話とは別に決めます。日常で回すぶんの子供服の収納はサイズと季節で分ける収納の工夫にまとめてあるので、そちらを見てください。
何を残すかは、写真に写っている服から選ぶ
箱一つと決まっても、何を入れるかで止まる方は多いです。そのときはスマホかアルバムを開いて、写真に写っている服から選びます。
写真に何度も写っている服は、よく着せていた服です。出かけた日にも家で過ごした日にも写っているので、手に取ったときに戻ってくる場面の数が多い。残す理由としては、これで十分だと思います。
逆に、一度も写真に写っていない服が出てくることもあります。頂きもので気に入っていたけれどサイズの合う時期が短くて着せられなかった、というような服です。とっておいた理由は服そのものではなく、もったいなさや贈ってくれた方への気持ちのほうにあることが多いです。写真に写っている服と比べてみると、順番がつけやすくなります。
写真に写っていないから価値がない、という話ではありません。決められないときに、どこから見るかを決めるための入口です。
今日できることを一つ挙げるなら、スマホの写真アプリで子どもが小さかったころの写真を10枚だけ見てみてください。同じ服が2回以上写っていたら、その服をメモしておく。服を触らなくてもできます。
捨てる以外の手放し方
出し方を先に用意しておくと、箱に入らなかった服を前にしたときの気持ちが変わります。ごみ袋しか出口がない状態で選ぼうとすると、選ぶ手のほうが止まります。
譲る
渡す先が決まっている服から出します。下のきょうだいに回すのでも、近所の方に渡すのでもかまいません。地域の交換会に出す方もいます。渡す先を探すところから始めると、袋に入ったまま玄関に置かれて何か月も動かなくなるので、相手が決まっていない服は譲る枠に入れないほうが進みます。
売る
子どもの服はサイズが小さいほど値がつきにくくなります。まとめて引き取ってくれる先を選ぶと、1枚ずつ値段を見て迷う時間がなくなります。売る作業そのものに手間がかかるので、点数が少ないときは売ることにこだわらなくていいです。
布として使う
着られなくなった服を小さく切って、掃除に使う方もいます。油汚れを拭いて、そのまま捨てる。ただし全部の服でやると量が減らないので、数枚だけと決めておくほうがうまくいきます。
譲る・売る・寄付の向き不向きは寄付・売る・譲るの選び方に、それ以外の出し方は捨てる以外の手放し方にまとめました。袋を2つ用意して「渡す先が決まっているもの」「まだ決まっていないもの」に分けるところまでやっておくと、次に手を動かす日が軽くなります。
片づけを「捨てる」から始めないという考え方は、Kindleで出した『捨てるからはじめない 片づけのプロは何を「捨てた」のか』に書きました。私自身が何を手放してきたか、どういう順番で決めてきたかの話です。子どもの服だけを扱った本ではありませんが、残す順番の決め方は同じなので、1枚目で手が止まる時間が長い方には近いところから読んでもらえると思います。
子どもに聞くのは、いつがいいか
本人に聞けば早いと思って聞いてみると、「全部とっておいて」と返ってくることがあります。小さいうちは目の前にある物が自分のものだという感覚のほうが強くて、何年も先まで含めた量を決めるのは難しいです。
小学校の高学年くらいになると、あっさり「いらない」と言うこともあります。親のほうが驚いて、結局その服だけ残したという場面も見てきました。
聞き方を変えると答えやすくなります。ケースを全部開けて選ばせるのではなく、こちらで候補を5枚に絞ってから「この中で残したいのはどれ」と聞く。選ぶ枠が小さいほど、子どもは答えを出しやすくなります。
残したい理由が自分の側にあるときは、子どものために残すと言わないほうがいいです。「いつか本人が見たいかもしれない」で残すと、量に上限がなくなります。私が見たいから残す、と自分で認めてしまったほうが数を決められます。
子どもが作った物や園から持ち帰ってくる物をどうするかは、子どもの物をどこまで残すかに書いています。服より数が増えるのが早いので、同じ考え方で先に箱を決めておくと楽です。
箱に入れた服は、そのあと季節ごとに見直さなくてかまいません。次に開けるのは子どもが家を出る日でもいいし、ただ開けたくなった日でもかまいません。開けたときに入っている枚数が今日決めたとおりであれば、それでうまくいっています。
自分ひとりで枠を決めるのが難しければ、家を見せずに言葉で話すだけで進められるはじめの一歩プラン(11,000円・オンライン可)もあります。

ライフオーガナイザー®として、特にADHD傾向のある方や片づけが苦手な方をサポート。完璧主義や罪悪感、思い込みなど、片づけの障害となる心理的要因に寄り添い、無理なく続けられる仕組みづくりを提案しています。
2012年からこの分野を学び、2023年にアメリカの専門団体「Institute for Challenging Disorganization®」にて日本人初のCPO-CDを取得。
「片づけの負担を減らし、自分らしい人生を楽しめる人を増やしたい」との思いで活動中。




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