せっかく片づけたのに元に戻る。「維持できない」を脳の仕組みから考える EF06

「片づけても元に戻る」は、片づけ方の問題じゃない

片づけのゴールは「きれいにすること」ではない

「頑張って片づけたんです。すごくきれいになったんです。でも、2週間で元に戻りました」

私が14年間ライフオーガナイザーとして活動してきたなかで、この言葉を何度聞いてきたかわかりません。そしてほとんどの場合、その方は続けてこうおっしゃいます。

「やっぱり私には無理なんだと思いました」

一度はできた。きれいになった瞬間は確かにあった。それなのに、気づけばテーブルの上にまた書類が積み上がり、カウンターにモノが並び、床にバッグが置かれている。あの頑張りは何だったのか。自分には片づけの才能がないのだ。そう思ってしまう気持ちは、とてもよくわかります。

しかし、ここで立ち止まって考えたいことがあります。

片づけのゴールは、「きれいにすること」でしょうか。

もしゴールが「きれいにすること」だとしたら、一度きれいになった時点で達成されているはずです。問題は、その状態が続かないことのほうにあります。つまり、本当のゴールは「きれいにすること」ではなく、「暮らしやすい状態を維持すること」なのです。

そして、「きれいにする」ことと「維持する」ことは、脳の中ではまったく別の作業です。

維持には「片づける力」とは別の力が要る

片づけるとき、脳はさまざまな力を使っています。このシリーズでこれまで見てきたように、始めるための力(課題の開始)、注意を持続する力、計画を立てる力、感情をコントロールする力、衝動を抑える力、柔軟に対応する力。これらの力を総動員して、散らかった空間を暮らしやすい状態に整えていく。これが「片づける」というプロセスです。

しかし、片づけが終わったあとに必要になるのは、別の力です。

使ったモノを元の場所に戻す仕組みを作り、それを維持する力。日々の暮らしの中に「片づけの時間」を組み込み、それを管理する力。そして、戻す動作を考えなくてもできるくらいの習慣にしていく力。

これらは、片づけの「本番」とは異なる種類の実行機能です。

たとえるなら、片づけが「大掃除」だとしたら、維持は「毎日の歯磨き」に近い。大掃除には爆発的なエネルギーと集中力が必要ですが、歯磨きに必要なのは、毎日同じことを淡々と続ける力です。大掃除が得意な人が歯磨きも得意とは限らないし、歯磨きが習慣になっている人が大掃除も得意とは限りません。それぞれに別の脳の力が関わっているからです。

だから、「片づけはできるのに維持できない」というのは、まったく矛盾していないのです。片づける力と維持する力は、そもそも別のものなのですから。

今回は、この「維持する力」に関わる3つの実行機能を取り上げます。整理の体系化(Organization)、時間管理(Time Management)、そしてMcCloskeyのモデルから借りてくる「ルーティンを使う力(Use Routines)」です。

整理の体系化(Organization)とは

モノの「住所」を決めて維持するシステムの力

整理の体系化(Organization)は、Dawson & Guareの実行機能12要素のひとつで、第0回でも簡単に紹介しました。ここではより詳しく、片づけの「維持」との関わりに焦点を当てて見ていきます。

この力は、ひとことで言うと、「情報やモノを管理するための仕組みを作り、それを使い続ける力」です。

片づけの文脈で「モノの住所を決めましょう」という言葉をよく聞きます。これは、整理の体系化という実行機能そのものの話です。どのモノがどこに住んでいるか。そのルールを作り、自分の頭の中に地図として持っておく力。そして、使い終わったモノをその住所に戻すという動作を日常的に続ける力。

ただし、ここで大切なのは、「住所を決める」ことと「住所に戻し続ける」ことは、同じ力の二つの側面だということです。住所を決めるだけなら、片づけの「本番」の一部としてできる方は多い。問題は、日々の暮らしの中でそのルールを運用し続けることのほうにあります。

Dawson & Guareは、この力について「情報やモノを追跡・管理するための秩序だったシステムを確立し、維持する力」と説明しています(Dawson & Guare, 2018)。「確立する」と「維持する」、この二つが一つの要素として定義されていることがポイントです。仕組みを作ることだけでなく、作った仕組みを使い続けることまでが、整理の体系化という力の範囲に含まれています。

私がお客さまのお宅に伺うとき、「片づけたのに元に戻ってしまう」という場合、多くのケースでは住所の設定そのものに問題があるか、あるいは設定はできていても「戻す」という運用が続かないか、そのどちらかです。

そして、どちらの場合も、原因は「だらしなさ」ではなく、整理の体系化という実行機能の得意・不得意にあることがほとんどです。

仕組みが複雑すぎると脳が拒否する

ここで、片づけの「維持」が難しくなる最も大きな原因の一つについてお話しします。

それは、仕組みが複雑すぎることです。

片づけの「本番」のとき、人はやる気とエネルギーに満ちています。「今度こそちゃんとやろう」という気合いがあるので、かなり精密な仕組みを作ることができてしまいます。文房具は種類ごとに仕切りを入れて、ペンは色別に、シャーペンと鉛筆は分けて、消しゴムは消しゴムだけの場所に。クローゼットの中はアイテム別・色別・季節別に分類して、それぞれにラベルを貼って。

完成した瞬間は美しいのです。でも、その仕組みを日常的に使い続けるためには、毎回「このモノはどこに戻すんだっけ?」と考え、正確にその場所に戻す必要があります。そのたびに脳は判断のエネルギーを使います。

仕組みが複雑であればあるほど、「戻す」というひとつの動作にかかる脳の負荷が大きくなります。エネルギーが十分にある日はいいのですが、疲れている日、急いでいる日、余裕のない日には、脳は「面倒だ」と判断して、モノをとりあえずその辺に置いてしまいます。

これは意志の弱さではありません。脳がエネルギー効率を優先した結果です。

脳は基本的に、エネルギーの消費を最小限に抑えようとする傾向があります。これは脳科学でも知られている特性で、「認知的倹約家(Cognitive Miser)」と呼ばれることもあります。つまり、戻す動作に認知的なコストがかかりすぎると、脳はその動作を避けるようになるのです。

だからこそ、維持のための仕組みは、「作ったときの自分」ではなく、「疲れた日の自分」に合わせて設計する必要があります。いちばんエネルギーが低い状態でも回せる仕組み。それが、維持できる仕組みです。

具体的な仕組みづくりの方法は、後半の実践パートで詳しくお伝えします。

時間管理(Time Management)とは

片づけの「見積もり」がずれるとき

時間管理(Time Management)も、Dawson & Guareの12要素のひとつです。自分がどれくらいの時間を使えるかを見積もり、それをタスクに配分する力のことです。

第0回でも触れましたが、ここでは「維持」との関わりに焦点を当てます。

片づけの「本番」は、多くの場合、まとまった時間を確保して取り組みます。「土曜日の午後に3時間」とか、「連休を使って一気に」とか。大きなイベントとしてスケジュールに組み込むので、時間の確保自体はなんとかなることが多い。

しかし、維持に必要なのは、まとまった時間ではなく、日々の暮らしの中の「小さな時間」です。使ったモノを戻す数秒。散らかりかけたカウンターを整える数分。洗濯物をたたんでしまう15分。こうした小さな片づけの時間を、日常の中に継続的に組み込んでいく必要があります。

ここで時間管理の実行機能が関わってきます。

まず、「どのくらいかかるか」の見積もりです。「洗面台の下を整理するのは10分くらいだろう」と思っていたのに、実際にやってみると30分かかった。「帰宅したらすぐにバッグの中身を出そう」と思っていたけれど、帰宅したらやることが山積みで、バッグの中身どころではなくなった。

時間の見積もりが現実とずれること自体は、誰にでもあることです。しかし、この「ずれ」が大きい方の場合、片づけの維持に必要な時間を日常の中に組み込むことが非常に難しくなります。

Dawson & Guareは時間管理の力について、「どれくらいの時間が使えるかを見積もり、その時間内に収まるように時間を配分し、締め切りや期限を意識しながら行動する力」と説明しています(Dawson & Guare, 2018)。片づけの維持において特に重要なのは、「時間を見積もる」部分と「日常の中にタスクを配分する」部分です。

「ちょっとだけ」が30分、そして挫折

時間管理の難しさが、片づけの維持にどう影響するか、もう少し具体的に見ていきましょう。

よくあるのが、「ちょっとだけやろう」のつもりが予想以上に時間がかかり、結果として片づけそのものが嫌になってしまうパターンです。

たとえば、リビングのテーブルを片づけようとしたとします。テーブルの上を見ると、郵便物、子どものプリント、レシート、ペン、リモコンが散らかっています。「これくらい5分で終わるだろう」と思って手をつけると、郵便物の中に支払いが必要なものがあることに気づく。子どものプリントに返事を書かなければならないものが混ざっている。レシートを仕分けしようとしたら、家計簿につけていないものが先月から溜まっていた。

気づけば30分が経過して、テーブルの上はまだ半分も片づいていない。「こんなはずじゃなかった」「これだから片づけは嫌なんだ」。次からは、テーブルの上を見ても「また時間がかかるからやめておこう」と思うようになります。

このとき、問題は片づけの技術ではありません。「5分で終わるだろう」という見積もりが現実とずれていたことが問題なのです。

時間の感覚には、大きな個人差があります。ある人にとっては「5分」が正確に5分感覚で把握できるのに対して、別のある人にとっては「5分」が体感で2分だったり、15分だったりすることがあります。これは「時間知覚」の個人差であり、怠けや不注意の問題ではありません。

そして、この時間の見積もりのずれは、片づけの維持において特に深刻な影響を与えます。なぜなら、維持のための片づけは「短い時間でこまめにやる」ことが前提だからです。その「短い時間」の見積もりが毎回ずれてしまうと、「片づけには思った以上に時間がかかる」という認識が強化されていき、やがて「短い時間ではどうせ終わらないから」と手をつけなくなってしまうのです。

後半の実践パートでは、この時間の見積もりのずれを仕組みで補う方法をお伝えします。

ルーティンを使う力(Use Routines)とは

習慣の力で判断エネルギーを節約する

ここで、このシリーズでは初めて登場する概念を紹介します。McCloskey(マクロスキー)のモデルにおける「Use Routines(ルーティンを使う力)」です。

第0回で触れたように、実行機能の分類は研究者によって異なります。Dawson & Guareの12要素モデルは日常の場面と結びつけやすい実践的な分類ですが、McCloskeyのモデルはさらに細かく実行機能の下位要素を分解しており、Dawsonらのモデルではカバーしきれない側面を捉えています。

「Use Routines」は、その中でも片づけの維持を考えるうえで特に重要な概念です。

Use Routinesとは、「特定の状況において決まった行動パターン(ルーティン)を確立し、それを自動的に実行できるようにする力」のことです(McCloskey, Perkins & Van Divner, 2009)。もう少しかみ砕いて言うと、「いちいち考えなくても体が動くような習慣の回路を、脳の中に作り上げる力」です。

なぜこの力が片づけの維持に重要なのか。

先ほど、維持のための仕組みが複雑すぎると脳が拒否するという話をしました。仕組みを使い続けるために、毎回「どこに戻すんだっけ」と考え、判断のエネルギーを使わなければならないと、脳は疲弊します。

しかし、もしその動作がルーティンとして確立されていたら、話は変わります。歯磨きをするとき、「歯ブラシを右手で持って、歯磨き粉をつけて、上の歯の右奥から磨いて…」と一つひとつ考えている人はいないでしょう。歯磨きの一連の動作は、ルーティンとして脳に組み込まれているため、ほとんど判断のエネルギーを使わずに実行できます。

同じことが片づけの維持にも言えます。帰宅したらバッグをここに置く。鍵をここに掛ける。郵便物はここに入れる。こうした動作がルーティンとして確立されていれば、考えなくても体が動きます。判断のエネルギーを使わないので、疲れた日でも維持できます。

つまり、Use Routinesは、維持のエネルギーコストを劇的に下げるための力なのです。

McCloskeyモデルが教えてくれる「維持の要」

McCloskeyのモデルでは、実行機能は大きく「自己調整」と「自己実現」の領域に分かれていますが、ルーティンを使う力は日常の自己調整の中に位置づけられています。つまり、特別な努力を要する場面ではなく、毎日の暮らしを回していくための基本的な力のひとつとして捉えられているのです。

このことは、とても大切な示唆を含んでいます。片づけの維持は、特別な意志力やモチベーションの問題ではなく、日常の自己調整の仕組みの問題だということです。

ルーティンの確立には、いくつかのステップがあります。まず、どの場面でどの行動をするかを意識的に決める段階。次に、その行動を繰り返して脳に定着させる段階。そして最終的に、意識しなくても自動的にその行動が起きるようになる段階。

このプロセスを経て、片づけの動作が「考える仕事」から「体が覚えている仕事」に変わっていきます。

ただし、ルーティンを確立する力にも個人差があります。すぐに新しい習慣を身につけられる方もいれば、なかなか定着しない方もいます。それは脳のクセであり、努力が足りないということではありません。

大切なのは、自分にとってルーティンが定着しやすい条件を見つけることです。ある人は視覚的な手がかり(「ここに置く」という目印が見える状態)があるとルーティンが定着しやすく、別のある人は行動のセット(「帰宅→靴を脱ぐ→鍵を掛ける」のように前の動作と連結させる)のほうが定着しやすい。その条件は人によって違います。

後半の実践パートでは、このルーティンを暮らしの中に組み込むための具体的な方法についてもお伝えします。

こんな背景が関係していることがある

片づけの維持に関わる実行機能の得意・不得意には、さまざまな背景があります。毎回お伝えしている3つの視点から見ていきましょう。

もともとの脳の特性として

発達特性、特にADHDの傾向がある方の場合、今回取り上げた3つの実行機能のすべてに影響が出やすいことが知られています。

整理の体系化については、「仕組みを作ること」自体は得意な方もいます。ADHDの方の中には、むしろ片づけの「本番」では過集中を発揮して、驚くほど短時間で空間を整えることができる方がいらっしゃいます。しかし、その仕組みを日常的に運用し続けることが難しい。使ったモノを元の場所に戻すという一見シンプルな動作が、なぜか続かない。これは整理の体系化の「維持」の部分に引っかかりがあるからです。

時間管理については、ADHDの特性の中でも特に影響が大きい領域です。時間の感覚が独特であることが多く、「5分のつもりが30分」「あと少しで終わると思ったのに1時間」ということが頻繁に起きます。これは「時間盲(Time Blindness)」と呼ばれることもある特性で、時間の経過を正確に感じ取ることが脳の仕組みとして難しいのです。片づけの維持に必要な「毎日少しずつ」という時間の使い方と、この特性は相性が良くありません。

ルーティンの確立も、ADHDの傾向がある方にとっては大きな課題になりがちです。新しい習慣を始めても数日で忘れてしまったり、別の興味に意識が移ってしまったりして、ルーティンが定着する前に中断してしまうことがあります。

ただし、こうした傾向はADHDのある方だけの話ではありません。「仕組みを作るのは好きだけど維持が苦手」「時間の見積もりがいつもずれる」「習慣がなかなか続かない」。そういう方は、特定の条件に当てはまらなくてもたくさんいらっしゃいます。実行機能の得意・不得意は連続的なグラデーションであり、誰にでもあるものです。

高次脳機能障害では

脳卒中や交通事故などで脳に損傷を受けた方の場合、整理の体系化、時間管理、ルーティンの確立のいずれにも変化が生じることがあります。

私がサポートに関わった方の中に、こんなケースがありました。以前はとてもきちんとした暮らしをされていた方が、脳卒中のあと、「モノを使ったらどこに戻すか」がわからなくなったとおっしゃるのです。住所自体は覚えているのに、使い終わったあとに「戻す」という動作が自然に出てこなくなった。以前はルーティンとして自動化されていた動作が、脳の損傷によってリセットされてしまったような状態です。

また、時間管理にも大きな変化が出ることがあります。「30分経ったつもりが、時計を見たら2時間だった」「何をするのにもすごく時間がかかるようになった」。こうした変化は、ご本人にとってもご家族にとっても大きな戸惑いになります。

高次脳機能障害のある方の暮らしづくりでは、以前のやり方をそのまま再現しようとするよりも、今の脳の状態に合わせた新しい仕組みを一緒に作っていくことが大切です。ルーティンも、以前は自動的にできていたことを、今の脳に合わせて意識的に再構築していく必要があるかもしれません。そのプロセスには時間がかかりますし、できることとできないことの範囲も以前とは変わっているかもしれません。しかし、脳に合わせた仕組みを作り直すことで、維持できる暮らしを取り戻していくことは十分に可能です。

疲れ・ストレス・加齢などでも

整理の体系化、時間管理、ルーティンの力は、体調や環境の影響を強く受けます。

特に慢性的な疲労やストレスが続いている時期は、これらの力が全般的に低下しやすくなります。普段はルーティンとして自動的にできていた「使ったモノを戻す」動作が、疲れ切っているときには「もう今日は無理、ここに置いておこう」になる。その「とりあえず」が積み重なって、気づけば元の散らかった状態に戻っている。

仕事が忙しい時期、家族のケアで心身ともに消耗している時期、睡眠不足が続いている時期。こうした状態で片づけを「維持」し続けることは、脳にとって本当に大きな負荷です。ルーティンが崩れるのは、あなたの意志が弱いからではなく、脳が「今はもっと大事なことにエネルギーを回す」と判断しているからです。

産後の時期も同様です。赤ちゃんのお世話で生活リズムそのものが不規則になるなかで、「毎日決まった時間に片づける」というルーティンを維持することは、ほぼ不可能に近い場合があります。それでいいのです。ルーティンはいつでも、暮らしが安定してきたタイミングで立て直すことができます。

加齢による変化も見逃せません。年齢を重ねると、新しいルーティンの確立に時間がかかるようになったり、時間の見積もりの精度が変化したりすることがあります。実家の片づけで、親御さんが「どこに何を置いたかわからなくなった」とおっしゃる場合、それは整理の体系化の加齢による変化かもしれません。「もっとちゃんとしてよ」ではなく、「今のお母さん(お父さん)にとって使いやすい仕組みに作り直そうか」という声がけのほうが、はるかに効果的です。

大切なのは、どんな背景があっても、仕組みを脳に合わせて設計し直すことで、維持はぐっと楽になるということです。

リバウンドしにくい暮らしの仕組みづくり

ここからは、「維持できない」を仕組みで補うための具体的な方法をお伝えします。

ライフオーガナイザーとして14年間、何百ものお宅で片づけに携わってきた中で、維持がうまくいくケースといかないケースの違いを見てきました。その違いの多くは、「意志の強さ」ではなく「仕組みの設計」にありました。これからお伝えするのは、脳の仕組みに合わせた仕組みづくりの考え方です。

モノの住所は「使う場所のそば」に決める

整理の体系化の力を補う、最も基本的な原則がこれです。

モノの住所は、そのモノを「使う場所」のすぐそばに設定する。言い換えれば、動線に沿った収納配置にするということです。

たとえば、ハサミ。ハサミの住所がリビングのデスクの引き出しの中だとして、キッチンでお菓子の袋を開けたいときに、わざわざリビングまで取りに行き、使い終わったらまたリビングに戻しに行くでしょうか。最初の数回は戻すかもしれません。でも、忙しい夕方、子どもに「早くあけて」と言われながらハサミを使ったら、キッチンのカウンターにそのまま置いてしまうのが自然です。

これは意志の問題ではなく、動線の問題です。

ハサミをキッチンでよく使うなら、キッチンにもハサミの住所を作ればいい。リビングで使うペンと、玄関で使うペンは、それぞれの場所に住所を設ける。同じ種類のモノを一箇所にまとめることよりも、使う場所のそばに住所を作ることのほうが、維持の観点からは圧倒的に効果的です。

なぜなら、「戻す」という動作のコストが下がるからです。使い終わったモノを元に戻すのに必要な移動距離が短ければ短いほど、脳は「面倒だ」と感じにくくなります。目の前に住所があれば、考えるまでもなくそこに戻せます。

私のお客さまのお宅で、この原則を取り入れてから「戻すのが苦にならなくなった」とおっしゃる方はとても多いです。「今まで、なぜあの場所にしまおうとしていたんだろう」と笑いながら話してくださった方もいらっしゃいました。

動線に沿った住所設定は、脳の「認知的倹約家」の性質を味方につける方法です。脳がいちばんエネルギーを使わない選択が、「正しい選択」になるように仕組みを設計する。それが、維持できる収納の基本です。

仕組みは「摩擦の少なさ」で選ぶ

住所を動線に沿って設定したら、次に考えたいのが、「戻す動作の摩擦」です。

収納の仕組みには、「摩擦」があります。フタを開ける、引き出しを引く、扉を開ける、ラベルを確認する、向きを揃える。戻すまでにかかるステップが多いほど、脳はその動作を「面倒なもの」と認識し、サボりたくなります。

私はこれを「収納の摩擦係数」と呼んでいます。摩擦係数が高いほど、維持は難しくなります。

たとえば、フタつきのボックスにモノを収納する仕組み。フタを開けて、モノを入れて、フタを閉じる。たった3ステップですが、フタがないボックスなら1ステップで済みます。たった2ステップの差ですが、1日に何度もその動作をするなら、この差は積み重なっていきます。

同じように、扉つきの棚よりもオープン棚のほうが戻しやすい。引き出しの中に仕切りがたくさんある収納よりも、ざっくりエリアで分けるだけの収納のほうが脳の負荷は小さい。

仕組みを選ぶとき、多くの方は「見た目のきれいさ」や「収納量の多さ」を基準にしがちです。でも、維持を最優先に考えるなら、基準は「摩擦の少なさ」です。

いくつかの具体的な工夫を挙げてみましょう。

フタをなくす。 よく使うモノの収納からフタを外す。それだけで、「戻す」のハードルが一段下がります。見た目よりも使いやすさを優先する場所を、暮らしの中にいくつか作っておくことが大切です。

ラベルを貼る。 「どこに何を戻すか」を、記憶に頼らず視覚情報で示す。ラベルがあれば、脳は「思い出す」というエネルギーを使わずに済みます。特に家族で暮らしている場合、自分以外の人にとっては「どこに何が住んでいるか」がわからないことが多い。ラベルは、家族全員の整理の体系化を外部からサポートする道具です。

ワンアクション収納にする。 モノを戻すのに必要な動作を、できるだけ一つだけにする。引っかける、入れる、置く。ワンアクションで戻せる仕組みなら、脳は「考える」より先に「体が動く」状態になりやすい。玄関の鍵はフックに引っかけるだけ。バッグは棚の上に置くだけ。コートはハンガーにかけるだけ。そのシンプルさが、ルーティンの定着を助けます。

仕組みの美しさと維持のしやすさは、しばしばトレードオフの関係にあります。すべてがきれいに整然と並んでいる収納は見た目には美しいけれど、それを維持するのに大きなエネルギーが必要なら、長続きしません。多少ざっくりしていても、疲れた日の自分でも「戻せる」仕組みのほうが、結果的には空間のきれいさを保てるのです。

1日5分の「リセットタイム」を暮らしに組み込む

時間管理の実行機能を補うために、とても効果的な方法があります。それは、片づけの時間を予定として暮らしに組み込んでしまうことです。

「片づけなきゃ」と思いながら後回しにするのは、「いつやるか」が決まっていないからです。時間管理の実行機能に引っかかりがある場合、「いつかやろう」は永遠に来ません。頭の中に「やらなきゃ」という漠然としたプレッシャーだけが残り続けます。

そこでご提案したいのが、「リセットタイム」です。

1日5分だけ、「散らかりかけた場所を元に戻す時間」を決めてしまう。朝の5分でもいいし、夜寝る前の5分でもいい。食後の5分でもいい。大切なのは、「何時から」「どのくらい」を具体的に決めることです。

「夜9時から5分間、リビングのリセット」。これだけ決めてしまえば、「いつやるか」を考えるエネルギーを使わずに済みます。時間管理の実行機能を使うのは最初の一回だけで、あとはそのスケジュールに従うだけです。

5分という長さにも意味があります。5分という時間は、先ほどお話しした「時間の見積もりのずれ」が起きにくい長さです。「5分のつもりが30分」にはなりにくい。タイマーをセットして、鳴ったら途中でもやめていい。そう決めておくと、「始めたら終わらなくなるんじゃないか」という不安も軽くなります。

片づけの時間を予定に入れるということは、「片づけの時間管理を脳の外に出す」ということでもあります。スマホのアラーム、カレンダーのリマインダー、冷蔵庫に貼ったメモ。外部のツールに時間管理を任せることで、脳の負荷を減らすことができます。

私自身も、暮らしの中に短いリセットタイムを組み込んでいます。プロだから片づいた状態が自然にキープできるわけではありません。仕組みがあるから、キープできているのです。

完璧な維持より「ゆるく戻せる状態」を目指す

最後に、片づけの維持について、いちばん大切だと思っていることをお伝えします。

「片づけた状態を完璧に維持する」。これをゴールにしてしまうと、ほとんどの人は挫折します。

暮らしは毎日動いています。朝起きてから夜寝るまで、モノを出して、使って、移動させて、また別のモノを出して。暮らしている限り、空間は散らかります。それが自然な状態です。

完璧な維持とは、つまり「暮らしの動きを止めること」に等しい。それは現実的ではありません。

私がお客さまにお伝えしているのは、目指すべきは「完璧な維持」ではなく、「ゆるく戻せる状態」だということです。

「ゆるく戻せる状態」とは、どういうことか。

日中は多少散らかっていてもいい。テーブルの上にモノが出ていてもいい。カウンターに郵便物が置いてあってもいい。でも、リセットタイムの5分で「だいたい元に戻せる」状態。完璧にきれいではないけれど、「明日の自分が困らない程度」にリカバリーできる状態。それが、「ゆるく戻せる状態」です。

このゴール設定が大切な理由は、脳のエネルギーの使い方に関わっています。「完璧に維持しなければ」と思っていると、少しでも散らかった瞬間に「もうダメだ」「また失敗した」と感じてしまいます。そしてその「失敗した」という気持ちが、次の「戻す」動作へのモチベーションを奪います。完璧主義は、維持の最大の敵です。

反対に、「多少散らかっても、戻せればOK」と思えていると、散らかることへのストレスが減ります。ストレスが減ると、脳のエネルギーが節約できます。そのぶんのエネルギーを「戻す」動作に使えるので、結果的に維持がうまくいきやすくなるのです。

「散らかる」→「5分で戻す」→「また散らかる」→「また5分で戻す」。この波が小さく繰り返されている状態が、リバウンドしにくい暮らしの姿です。散らかることを許容したうえで、戻す仕組みを持っている。それが、維持の本質だと私は思っています。


「やり方はわかっているのに、できない」。

このシリーズで何度も出てくる言葉ですが、維持に関しては、少し言い方を変えたほうがいいかもしれません。

「片づけ方はわかっている。でも、維持の仕方は誰にも教わらなかった」。

片づけの本やメディアでは、「どう片づけるか」はたくさん語られています。でも、「どう維持するか」については驚くほど語られていません。あるいは語られていても、「習慣にしましょう」「毎日少しずつやりましょう」という精神論にとどまっていることが多い。

でも今回見てきたように、維持には具体的な脳の力が関わっています。整理の体系化、時間管理、ルーティンを使う力。それぞれに得意・不得意があり、その個人差に合わせた仕組みの設計が必要です。

仕組みを脳に合わせる。動線を短くする。摩擦を減らす。時間を外部化する。完璧を手放す。

維持は、意志の力で続けるものではありません。仕組みの力で、自然に続くようにするものです。

100人いたら、100通りの維持の仕組みがあります。SNSで見かける美しい収納が、あなたの脳に合っているとは限りません。あなたの脳が「楽だな」と感じる仕組みが、あなたにとっていちばん正しい仕組みです。

次回、第7回のテーマは「自分の脳の『取扱説明書』を作ろう」。このシリーズで見てきた実行機能の全体を振り返りながら、自分の得意・不得意のパターンを俯瞰して、自分だけの片づけの工夫を設計するための「メタ認知」について掘り下げていきます。


出典・参考文献

  • Dawson, P. & Guare, R. (2018). Executive Skills in Children and Adolescents (3rd ed.). Guilford Press.
  • Dawson, P. & Guare, R. (2009). Smart but Scattered. Guilford Press.
  • McCloskey, G., Perkins, L. A., & Van Divner, B. (2009). Assessment and Intervention for Executive Function Difficulties. Routledge.
  • Diamond, A. (2013). Executive Functions. Annual Review of Psychology, 64, 135-168.
  • 森口佑介 (2019).『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』講談社現代新書.
吉村

ライフオーガナイザー®として、特にADHD傾向のある方や片づけが苦手な方をサポート。完璧主義や罪悪感、思い込みなど、片づけの障害となる心理的要因に寄り添い、無理なく続けられる仕組みづくりを提案しています。
2012年からこの分野を学び、2023年にアメリカの専門団体「Institute for Challenging Disorganization®」にて日本人初のCPO-CDを取得。
「片づけの負担を減らし、自分らしい人生を楽しめる人を増やしたい」との思いで活動中。